一週間のうちに解決しなかったら、天下の何人といえども、この事件を解決し得ないのです。しからば今日はこれにて失礼します。いや、明日より一日に一度は御連絡申上げますから……」
そういって袋探偵は引揚げていった。
美術商来邸
探偵の引揚げていったその後へ、美術商の岩田天門堂が、伯爵を訪ねて来た。
伯爵は、その後、誰にも会わないつもりだったが、岩田は美術商であるから、彼は盗まれた名画の行方について既に何か聞きこんで居るのではないかと思ったので、岩田だけには会うことにした。
天門堂主人は、例の如くちぐはぐな恰好で伯爵の書斎へはいって来た。羽織袴《はおりはかま》といういでたちながら、口髭と丸く刈りこんだ頤髯《あごひげ》を頤の下に蓄え、頭はきちんとポマードで固めて、茶色の眼鏡をかけている。
「これは、御前《ごぜん》。御機嫌にわたせられ、恐悦至極《きょうえつしごく》に存じます、はい」
直角以上に腰を曲げて見せる。
「ふふん。今日は機嫌がよくないのだ」
伯爵は、すねたような声を出す。
「あれッ、これは意外なるおん仰せ。何ごとが御前の機嫌を損じましたか、その次第を――ほほう、これ
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