すり替え怪画
烏啼天駆シリーズ・5
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)志々戸伯爵《ししどはくしゃく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)何番|煎《せん》じかの出がらし
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ルパン式盗難
その朝、志々戸伯爵《ししどはくしゃく》は、自分の書斎に足を踏み入れるや、たちまち大驚愕《だいきょうがく》に襲われた。
それは書斎の壁にかけてあったセザンヌ筆の「カルタを取る人」の画に異常を発見したためである。
零落した伯爵の今の身にとって、この名画は、唯一の宝でもあったし、また最高の慰めでもあったのだ。この名画ばかりは、いくら商人から高く買おうといわれても、いつもはっきり断った。
画面は、場末の酒場で、あまり裕《ゆた》かでない中年の男が二人、卓子《テーブル》に向いあって静かにカードを手にして競技をつづけている。右側の男は、型の崩れた労働帽をかぶり、角ばった頤《あご》を持ち、そして自分が手番らしく熱心に手の中のカードを見つめている。左の男は、山高帽に似て、いやに中の高い帽子をかぶり細面で、パイプをくわえ、やはり手の中のカードを
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