は変った絵をお架《か》けになりましてございまするな」
さすがに美術商よと讃《ほ》むべきであるが、岩田天門堂は、話の途中で壁間の画を一目見ると愕《おどろ》きの声をあげた。
「君にも分るかね」
伯爵は、情けない声で訊《き》いた。
「分りますどころか、実に珍なる画でございまするな。御前はこの画をどこで手においれになりました。また、ここにお架けになって居りますのは、如何なる洒落《しゃれ》でござりまするか」
「無礼なことをいうね、君は」と、伯爵の額には青筋が太く出た。
「いや、これは御無礼を。平頭陳謝仕りまする。しかし正直なところ、鈍なる天門堂には皆目わけが分りませんので。御前より御説明を承りますれば、まことに幸《さいわ》い……」
そこで伯爵は顔色を和《やわら》げて「カルタを取る人」の盗難とその入れ替えにこの怪画が残してあったことを物語った。
聞いている岩田天門堂は、さかんに愕きの声を洩らし、御前をも憚《はばか》らず頤髯をひっぱり、果ては舌打ちまでした。
「とんだひどい奴があった者でございますね。盗んで行くなら盗んで行くで、そっくり持って行けばいいものを――いや、これは失言でございました
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