、どうぞ御勘弁を――つまらんものを残して行くなんて、まことに人を莫迦《ばか》にした泥坊の仕打でございまするな。手前如きでさえ、この画を見るとむかむかとしてまいります。ああ。気持が悪い。なんという侮蔑《ぶべつ》、なんという愚弄《ぐろう》、いや、御前もさぞ御気持の悪いことでございしょう。お察し申上げまする」
と天門堂はしげしげと伯爵の顔を見て云ったものである。伯爵の顔は悄然《しょうぜん》たる顔から、憤然《ふんぜん》たる顔に移行した。
「全く不愉快だ。おい天門堂。この絵を片付けてくれ。そうだ、庭へ持出して、焼いてしまってくれ。なに構わんから」
「焼き捨てろと仰有《おっしゃ》いますか。それはまことに――いや、御立腹《ごりっぷく》はご尤もであります。御下命《ごかめい》によりまして早速お目通りからこの珍画を撤去いたしまするが、しかし御前、お焼き捨てになりまするなら、どうか天門堂へ適当なる価格をもって御払い下げ願わしゅう存じます、はい。勉強いたして頂戴いたしまする」
岩田は、懐中から大きな財布を出して、その上をぽんと叩いた。
「なんだ。お前も変っているな。とんでもない模写のニセ名画を買い取って、
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