どうするつもりか」
「いえ、もちろん手前の手に渡れば金儲《かねもうけ》けの糧《かて》にいたします。出鱈目《でたらめ》な説明を加えましてな、セザンヌの弟子が『カルタを取る人』を模写中発狂して、こんな画を描いてしまったが、とにかくこれはセザンヌの弟子なるフランス人の筆であるから、一枚五千円だと申しまして売りつけます」
 伯爵の心が動いた。
「じゃあ、いくらで買っていくね」
「左様《さよう》。大奮発をいたしまして一千五百円では如何さまで」
「おい、ひどく儲けるつもりだね。さっき五千円で売りつけるといったのに、ここから買っていくときはたった千五百円か」
「ははは、これは御前、恐れ入りました。売りつけますにはいろいろと手のかかるものでございまして、それ位の利益を見ておきませんことには……ええい、ようございます。特に大々奮発いたしまして、ぎりぎりのところ四千円で頂きまする。千円は儲けさせて頂きたいもので、はい」
 とどのつまり、岩田天門堂はこの怪画を四千円で伯爵から買い取り、折柄ちょうど店の者が自動車を持って岩田を迎えに来たので、それに乗って帰った。もちろん怪画はそのとき持っていった。


   
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