んだ。しかしそれは何番|煎《せん》じかの出がらしだ。しかも入れ替えていった模写画というのが、一目でそれと分る拙劣な画だ。
「してみると、あの画を盗んでいった奴は、大した泥棒じゃあないね」
大した泥棒じゃないと、いってはみたものの、よく考えてみると、伯爵にとっては、手中の玉をなくしたよりももっと大きい痛手だった。
毎日あの名画を見、あの名画を頼りにして辛うじて生き続けて来たのにそれを奪われてしまっては、伯爵は生活力の九割がたを失ったようなものだと思った。伯爵はがっかりして、肘掛椅子の上に失心してしまった。
袋探偵登場
やがて伯爵は、失望の中から起きあがった。
「よし。こうなったら、どんな事をしても、あの憎い泥棒めを掴まえ、そしてあの画を取返してやるのだ」
伯爵は、名画を取返すために、鬼になろうと決心した。
といって、彼が自ら探しまわったんでは、大した収穫のないのを弁《わきま》えていたので、早速《さっそく》この事件を警察署に訴えた。
警察署からは、その翌日になって係官が一人来た。そして事情をいろいろと聞き、入れ替えになった名画を見、現場をよく見た。その後で、盗難届
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