た。いくら見直しても同じことであった。
「ふしぎなこともあればあるもの」
伯爵は、椅子から立って書棚のところへ行き、それからドイツで印刷された名画集の大きな本を抱えて戻ってきた。椅子の上で、そのページを繰《く》った。セザンヌの「カルタを取る人」の原色版印刷が出て来た。それと、壁にかかっている画面とを見較べると、いよいよ相違がはっきりしてきた。色調も、なんだか違うようである。これは一体どうしたわけであるか。
ふと、伯爵の脳裡に、電光の如く閃《ひらめ》いたものがあった。
「ははア。さては……」
伯爵は立って、画のそばに近づいた。それから額縁を裏返しにして、急いで調べた。画を額縁にとめてあった釘がぬけていた。
「ふーン。やっぱりそうか。盗まれたんだ。そして賊は、原画のかわりに、この模写の画を入れていったのだ。ふざけた奴だ。僕をこんな愚劣な模写ものでごま化《か》すつもりなんだ。なんという憎い奴だろう」
伯爵は、蒼くなり、また赤くなった。
名画を盗んで、そのあとに模写画を入れて置く。そうすれば、何も盗まれなかったように見せかけられるアルセーヌ・ルパンが発明した妙手だ。その妙手を模倣した
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