、毎日この名画に見なれているので、すぐ気がついた。この異状というのは、カードを持った右側の人の横顔がちがっている。型の崩れた帽子の下から出ているはずの耳が、今見る画にはない。つまり耳が帽子の中に隠れてしまっているのだ。
そしてこの人の顔つきも、たしかに変っている。平和な顔つきが、どぎつい神経質な顔つきになっている。それから驚いたことに、この右側の人物はパイプをくわえている。パイプをくわえているのは、左側の人物だけであったのに、今こうして見る画面では、二人ともパイプをくわえている。
「なんということだ」
伯爵は、思わず呟《つぶや》いた。
それから左側の人物をしげしげと眺めた。この人物も、たしかに顔つきが変っている。面長な顔が、かなり円味を帯びている。そして手にしているカードの数がすくない。
まだある。椅子の下に、画面の二人の膝が出ていなくてはならないのに、今見る画面においては、そこが塗りつぶされたようになっていて、二人とも膝がない。そのかわりとでもいうか、卓子《テーブル》の上には、余計なコップが一つある。
「一体これはどういうわけだ」
伯爵は、いくども目をこすって、画面を見直し
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