怪画は、それから二日後に、美術商岩田天門堂が来て、買取っていった。
地下の画室
某山脈の某地点に、烏啼天駆の持っている地下邸があった。
その一室が、かなり広くて、今は名画の間となっている。
その日、彼烏啼は、新しい画を持ちこんだ。それはルウベンスの「宝角を持つ三人のニンフ」に似た怪画であった。
彼の傍には、四十歳に近い色白の垢《あか》ぬけのした婦人がついていて、手伝っていた。
怪画は、中央のテーブルの上に、上向きに置かれた。面長白面の美男子烏啼は、待ちきれないといった顔で、婦人を促すのであった。
「そうお急ぎになっても、同じことですわよ」
「いや、早く幕を取除いて、その下にある本体を見せてもらわないことには、安心ならない。藤代女史、急いで……」
藤代女史といわれた大年増は、烏啼をいくぶん焦らせて悦《よろこ》んでいる気配であった。それでも遂に彼女は仕事にかかった。白いバットの中に、青味がかった薬液が注ぎ入れられた。その中へ白いガーゼを浸して、たっぷりと液を吸わせた。女はそれを取上げると、画面へぶっつけて、二三度こすった。
すると横向きになっている右端のニンフの
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