た。
すなわち、右端のニンフが原画では七三に向いているのが、彼女の手によって真横向きに描き改められた。真中のニンフの左手は、原画では垂れ下っているが、これを宝角を抱いている様に描き改めた。それから左端のニンフは正面向きに直され、手の形も変えられた。それが済むと女賊は大急ぎで道具類を片附け始めた。
すると男賊が寄って来た。
「ふむ。実に大したものだ。藤代《ふじしろ》女史の手腕恐るべし。絵具の材料も吟味はしてあるんだが、なにしろルウベンスそっくりの筆致を出したところは恐れ入った。これなら、誰が見たって、まさかこんな加筆をやったと思うまい。ふーン」
男賊は、それまでと違った一変した態度をとって、仲間を讃めた。
「あなたが、あたしにいい言葉をかけて下さるのは、こんな仕事をした直後だけに限るのよ。憎らしい人」
「さあ、急ごう、仕事が終れば、早々退場だ」
男賊は女賊を促して、さっさと部屋から出ていった。庭園に面した戸は、二人の賊を送り出すと、元のようにぴったりと閉じられた。
加筆されて怪画となり果てた名画「宝角を持つ三人のニンフ」は、そのよき静かな応接間に睡りをとったのであった。
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