いたが、やがて軽くうなずくと、小さい机を傍へ引寄せ、その上に黒い包を載せて、解いた。
中からは絵具箱や、紙に包んであるガラス壜《びん》にはいった液体などが現われた。女賊はこれを小机の上に並べて点検を終ると、小缶の蓋をあけて左手に持ち、右手に刷毛《はけ》を持って画に近づいた。何をするのかと思っていると、刷毛を小缶の中に入れてかきまわし、それをいきなり画面にぺたぺたと塗りつけた。
すると画面は、刷毛の当ったところだけが白くなった。
何を塗りつぶすつもりか。
それにしても賊の怪行為だ。
女賊は、画面に三ヶ所の白い塗り潰《つぶ》しの箇所をこしらえた。右端のニンフの顔がなくなった。真中のニンフの左手も消された。左端のニンフの顔も白塗りにより、右手も白く消された。
うしろを歩いている男賊は、時々立ち停って、女賊のすることを凝視《ぎょうし》する。
女賊の怪行為は続いた。
それが終ると、こんどは絵具箱からパレットを取出し、それから絵筆を右手にとった。それから彼女は、非常な手練と速さを持って、さっき白塗りにした上に、別の画を描いていった。もっともその画は、原画の消してない部分とよく連続し
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