余程忍び込みには経験があるらしく、庭園に面した廊下の端の掃《は》き出《だ》しの戸を簡単にこじあけ、仲間をさし招いてはいった。
 二人は、各部屋の様子をうかがって廻った。そして小さな笈を使って隙間から部屋の中へ何か霧のようなものを吹き入れた。
「こうして置けば、四時間は熟睡していて下さるよ」
 男賊が笑いながら仲間に云った。
 最後に応接間に入った。
「やあ、さすがはルウベンス。いいもんだなあ」
 男賊は、広い肩を左右へ張って、惚れ惚れと画面に眺め入った。しばらくすると、彼の左の腕に、柔く力が加わった。女賊が、それを抱えたのだ。ぴったりと女賊は身体をすり寄せる。
 どうしたわけか男賊は「これッ」と叫んで仲間から身を引いた。彼は左の腕を、痛そうに撫《な》でた。
「つまらんことはよしにして、さあ仕事にかかって貰おう。君が仕事をする一時間は絶対に大丈夫だから、安心してやるんだ。もし外部から邪魔が来れば、そのときは五分間でおれが片附けてしまう。さあ、仕事にかかったり」
 仕事とは、何か。
 男賊の方は退いて見張についた。女賊の方が前に出た。ルウベンスの「宝角を持つ三人のニンフ」の画面をじっと見て
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