「名画といえば、入れ替わりの名画はどうなさいました。壁からお外しになって、おしまいになったんですか」
「いや。あのインチキ名画は、出入りの美術商に四千円で払い下げてやったよ」
「それはどうも。お気のはやいことで」
「一日に何十回と見るたびに胸糞《むなくそ》が悪くなるから、無い方がせいせいするよ」
「しかし、どうも、ちと気がお早すぎましたね。これはどうも」
 と、袋猫々探偵は、腕を組み、首をかしげて考えこんでしまった。


   怪賊の侵入


 こういう名画すり替え事件が、その週のうちに、前後三回起った。
 しかし当局へ届けられたのは、一回だけであった。他の一回は、被害者の方で気がついていなかったし、もう一回の方は、事情があって当局へ届けなかった。その事情というのはその名画が、公表出来ないような筋道を通ってその人の手に入ったもので、届ければ藪蛇《やぶへび》になるのを嫌ったのである。
 探偵袋猫々は、この三つの事件を知っていた。それは彼の熱心と、彼の張っている監視網の確実性によるものであろう。
 彼は、極秘裡《ごくひり》にこの三事件を並べて検討した。その結果、三事件に共通しているものを
前へ 次へ
全28ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング