え、まだ、そこまでは行って居りませぬ。犯罪の性質と手口から判断して、この事件は彼烏啼の仕業にちがいないと推理した結果を御報告に参ったわけです」
「そんなら一刻も早く烏啼天駆とやらを縛りあげて、僕のところへ連れて来給え」
「ああ、そのことですが、実は私は烏啼を常に監視しつづけているのですが、どうしたわけか、この半年ほど、烏啼は本部に居ないのです。つまり行方をくらましているのです。彼のことですから、死んだのではないと思います。彼の部下もちゃんと元気に秩序立って活動していますから、頭目《とうもく》烏啼は死んだのではなく、どこかに隠れているにちがいありません。ですから私は、これから烏啼の在所を、極力捜査にかかる決心です」
「それはまた、たより無い話だね。さっき聞いた犯人が烏啼であるという結論までたより無くなって来た。君、大丈夫かね」
 伯爵は情けない顔をした。
「大丈夫ですとも。怪賊烏啼を捕る力量のある者は天下に私ひとりです。どんなことがあっても彼の尻尾をつかんで取押えてごらんに入れます」
「待ち給え。毎度いうように、犯人を捕えることよりも、名画を僕の手に戻してくれることに力を入れてくれ給え」
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