に参りましたのは、私には斯《か》くのとおりの捜査手順がついて居りますことをお知らせいたし、すこしでも御安心願おうと存じまして……」
「聞きましょう、君の話を。犯人の素性その他について、聴取しましょう」
 伯爵はややがっかりしたが、やがて思い直して探偵にそういった。
「これは私でなくては図星《ずぼし》を指す者は居ないのでございますが、この犯人は、かの憎むべき奇賊烏啼天駆の仕業《しわざ》でございます」
「なに、ウテイ・テンクとは何者です。それが色白の女賊の名ですか」
「いえ、違います。二人組の男の方が、烏啼天駆なんで。こ奴《いつ》は、すこぶる変った賊でございまして、変った物ばかり盗んで行くのです。建物から一夜のうちに時計台を盗んでいったり、科学博物館から剥製《はくせい》の河馬《かば》の首を盗んでいったり、また大いに変ったところでは、恋敵《こいがたき》の男から彼の心臓を盗んでいったりいたしました」
「残酷なことをする。憎むべき殺人鬼だな」
「いや、殺人はいたしませぬ」
「しかし恋敵の男から心臓を抜けば彼は死んでしまう」
「ところが奇賊烏啼の堅持する憲法としまして“およそ盗む者は、被害者に代償
前へ 次へ
全28ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング