と、死闘の場を窺《うかが》いながら、半ば失心の体の男の袖を引くと、かの男は邪慳《じゃけん》に袖を払って、スタスタと出る。
「もし、半之丞さま。虎松はどんなにか若様をお探し申して居りやした。もし、半之丞さま、どうなすったのでござりまするか」
 虎松は思いがけない半之丞に巡りあって、殺人鬼と権四郎の果し合いなど問題ではなくなった。半之丞は一向手応えがない、黙として、風のように抜けてゆく。と、それと同じように、黒装束の殺人鬼もヒラリヒラリと大通を向うへ走りゆく。
「権四郎、覚悟しろ!」
 と、軒下なる半之丞と思われる人物は始めて口を開いて、呪わしい言葉を街上の勇士に抛《な》げつけた。その途端に黒装束の怪人の大刀が電光のようにピカリと一閃して、――。
「うわーッ。うーむ――」
 と、魂切《たまげ》る悲鳴が起った。声の主は権四郎だった。白刃をポロリと地上に墜《おと》すと体を絞《しぼ》り手拭《てぬぐい》のようにねじって、両手を代り代りに伸ばしては虚空をつかむと見えたが、やがて、ズドーンと地上に転落した。
「思い知ったか、権四郎!」
 と軒端の半之丞は、遠くから呪いの言葉を吐いた。虎松はこの場の
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