不可解な情景に立ち竦《すく》んだまま。
「大願成就だ。――ここらで引揚げよう」
 と云った半之丞が、何気なく背後をふりかえって、そこで虎松とバッタリ顔を合わせて、ギョッとした。
「おお、虎松。――お前に教えとくが、この後こんな場に必ず出てはならぬぞ。忘れるなッ」
 そういい置くと、半之丞は軒端を出てバラバラと走りだした。すると街上の殺人鬼も何に脅《おび》えたか、同じくバラバラと駆けだした。
「ま、待てッ!」
 と虎松が喚《わめ》きながら、追いかけるのを、
「莫迦《ばか》め! 来るなと申すに。教えたことをすぐ忘れる愚か者めが」
 そういい残して半之丞はドンドン駆け出していった。そのうちに二つの黒影がもつれ合って一つになると見えたが、そのまま次第に夜の闇の中に消えて見えずなった。
 虎松は、それでも後を追い駆けたが、それが無駄であることに気がつくには、余り多くの時間を要しなかった。
「――解せぬ。……」
 と首をふりながら、元の大通りへ帰ってくると、そこには何時押しよせたか、十人あまりの人だかり……。
「あまりにも美事な太刀傷じゃ。人間業ではないのう」
「やはり天狗の仕業じゃ。それに刃向っ
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