くろがね天狗
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)岡引《おかっぴき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一枚|肋《あばら》
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   師走三日


 岡引《おかっぴき》虎松《とらまつ》は、師走《しわす》の三日をことのほか忌《い》み嫌《きら》った。
 師走の三日といえば、一年のうちに、僅か一日しかない日であるのに、虎松にとってはこれほど苦痛な日は、ほかに無かったのであった。そのわけは、旗本の国賀帯刀《くにがたてわき》の前に必ず伺候《しこう》しなければならぬ約束があったからである。
 その年も、まちがいなく師走に入って、三日という日が来た。その頃、この江戸には夜な夜な不可解なる辻斬《つじぎり》が現れて、まるで奉行《ぶぎょう》も与力《よりき》もないもののように大それた殺人をくりかえしてゆく。虎松も岡引の職分として、その辻斬犯人を探すためにたいへん忙しい思いをしていて、一日は愚《おろ》か一刻さえ惜しまれるのであったが、師走の三日ばかりは、何が何としても国賓帯刀の門をくぐらないでは許されなかった。
「おう、虎松か、よう参ったのう。それ、
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