ょうはい》をすませたばかりの別室に雪崩《なだ》れこんだから、武士の名誉にかけてもうどうすることも出来なくなりました。結縁なかばにして、英雄権四郎の出陣!
「なに、いと容易なことじゃ。今夜の御饗応がわりに、直ちに駆けつけて、殺人鬼を打ち取って参り、諸兄の友誼に酬いるで厶ろう。お妙――も楽しみにして、ちょっと待っていやれ」
呪いの凶刃
遅い月がヌーッと頭を出して、ほのかに明るい弓町の通りを、風のようにあっちへ抜けこっちへ現れている一つの黒装束!
それに追い縋《すが》るようにまた別の黒影――それこそ旗本のうちに剣をとらせては及ぶものなしと云われたる花婿権四郎だった。
「ま、待てえ――。殺人鬼!」
抜き放った大刀を、サッと横に払ったが、怪人はすかさず飛び下って、白刃だけが空しく虚空を流れる――。
「失敗《しま》った。――逃げるな!」
と、なおも勢いこんで切り込んでゆく。
すると、その死闘の場より、ものの半町ほども距《へだ》たらぬ軒端に、搦《から》みあった別の二つの人影があった。
「もし、半之丞さまでは御座りませぬか。――ああ、もし、半之丞さま。虎松で厶《こざ》いますよ」
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