面《おもて》を隠した若い女性だった。
「女人ではなァ。……」と首を傾けたが、「なに女人大いに結構。これも憎き女の片割れじゃ。一刀のもとに切り捨ててやるまでのこと……」
お高祖頭巾の女は、もう間近になった。半之丞はツツーと柳の大木の陰から飛びだした。
「待たれい。――」と一声。
その声のもとに逃げだすかと思った女は、逃げるどころか、呀《あ》ッという間に飛鳥の如く半之丞の懐に飛びこんで来た。
「おおッ、――」
と危く身を避け、慌てて強引に大刀を横に払ったが、惜しや空を切り、その弾みで身体の中心を失った。
「し、失敗《しま》った。」と叫んだ途端に、横腹に灼けつくような疼痛《とうつう》を覚えた。
「呀《あ》ッ。――」
「思い知ったか、夫の敵!」
女人はヒステリックな声で叫んだ。一命を投げだしたお妙の必死の刃は、もともと手練の欠けた半之丞を美事に刺し貫いたのだった。
(うぬ。……お妙だったか……)半之丞は地面に匍《は》いまわりながら、憎い恋女の刃を避けるのに懸命だった。
「卑怯者、観念しや。……」もう施《ほどこ》す術《すべ》はなかった。
「く、くろがね天狗!」と半之丞は絞るような声で喚《
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