》くと、いつもとは違って機械人間を虎松の登っている商家の軒下に追いやった。そして半之丞が大刀をキラリと抜いた。今宵は彼もくろがね天狗と同じ黒装束に黒頭巾の扮装《いでたち》に身を固めていた。どうやら今宵は、半之丞自らが手を下すつもりらしい。
「来る、来る。……逃ねばよいが……」
 実は悪魔に魅《み》いられた半之丞、機械人間を操って切っていたばかりでは物足りなくなって、時々自ら邪剣を振っているのだった。もちろん大した腕前ではなかったが、くろがね天狗の扮装がスッと出たばかりで相手は一《ひ》とたまりもなく腰をぬかしてしまうのだから、それから後は言わば自由の利かない人間を嬲《なぶ》り殺しにするようなものだった。
「近頃、くろがね天狗の手練が、大いに落ちたようだ」
 という噂も、実はこの半之丞代行の拙《つたな》い業によるものだった。――半之丞は、何日ぶりかに巡りあった行人が、くろがね天狗の装束を見るより早く逃げだすことを恐れた。
 柳原の方から橋をコトコトと渡りはじめた珍らしき行人、――それは近づくままに、いたく半之丞を愕かした。
「ほう。……女人だ!」それは紛れもなく、お高祖頭巾《こそずきん》に
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