わめ》いた。
「た、助けてくれッ。逃げよう!」
 その精神が通じたのか、いままで軒端に石のように動かなかった機械人間が、このときゴクンと揺れると、サッと半之丞の方に走りよった。
「おお、怪物!」
 お妙が思わず二、三歩退く遑《いとま》に、機械人間は、半之丞を軽々と肩に担ぎあげると、ドンドン両国橋の上を駆けだした。
「ま、待てッ、卑怯者!」
 お妙は死力を尽して追いかけた。しかし機械人間は、お妙の五倍もの快速で逸走したのであった。見る見るうちに、半之丞を背負った機械人間の姿は家並の陰に消えてしまった。そして後に、お妙の激しい動悸《どうき》だけが残った。
 それっきり、くろがね天狗は江戸市中に出没しなくなった。
 岡引虎松は唖然として其の夜の決闘を屋根の上から眺めつくしたが、漸く探索上に一道の光明を見出した。そして足跡を絶ったくろがね天狗の行方を探し求めて、町の隅々から山また山を跋渉《ばっしょう》した結果、高尾山中に半之丞の隠れ家を探しあてたけれど、肝心の半之丞も機械人間も遂に見つけることができなかった。恐らくかの二人(?)は、人間の到底足を踏みこめないような奥深い山中か、或は深い湖水の底
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