るのかしらないが、とにかく科学小説時代が開ける。われ等の生活上の科学を、次の世界を夢想《むそう》する科学を、われ等の生命を脅かす科学を、その他いろいろな科学を土台として、科学小説はいまや呱々《ここ》の声をあげようとしている。どんないい子だか、鬼っ子だか、誰も知らないが……。
 そういう時節《じせつ》に、僕がこの本を上梓《じょうし》することが出来たのは、たいへん意義のあることだと思う。この本は、良きにも悪しきにも、科学小説時代を迎えるまでの捨て石の一つになるであろう。ぜひそうなることを僕は心から祈る者である。僕は、近き将来に於て、卓越《たくえつ》した科学小説家の著《あらわ》すところの数多くの勝れた科学小説を楽しく炉辺《ろへん》に読み耽《ふけ》る日の来ることを信じて疑わない。

 次に、この本に収めた各篇について、簡単な解説を試み、一つは作者自身の楽しき追憶《ついおく》のよすがにし、また一つは大方の御参考にしたいと思う。
 巻頭に置いた『崩《くず》れる鬼影《おにかげ》』は昭和八年、博文館から創刊された少年科学雑誌「科学の日本」に書き下ろしたものである。極く単純な宇宙の神秘を小説にしたもので
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