般読者階級には、科学小説に興味をもつ者も少く、科学を理解する者の頭から純然とひねりだされた科学小説もなく、そしてまた科学者たちは本来の科学研究を行うのに寧日《ねいじつ》なく、自己の科学趣味や科学報恩の意志を延長して科学小説にまで手を伸ばそうという人は皆無だった。
 ところが今や世はあげて、科学|隆興《りゅうこう》時代となり、生活は科学の恩恵《おんけい》によって目まぐるしいまでに便利なものとなり、科学によって生活程度は急激なる進歩をもたらし、科学に従事し、科学に趣味をもつ者はまた非常に多くなってきた。しかも国際関係はいよいよ尖鋭化《せんえいか》し、その国の科学発達の程度如何によってその国の安全如何が直接|露骨《ろこつ》に判断されるという驚くべくまた恐るべき科学力時代を迎えるに至った。科学に縋《すが》らなければ、人類は一日たりとも安全を保証し得ない時代となった。従前《じゅうぜん》の世界では、金力《きんりょく》が物を云った。今日は、金力よりも科学力である。いくら金があったとしても、科学力に於て優越していないときは勝者たることは難《かた》い。世界列国はいまや国防科学の競争に必死であり、しかもそ
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