子を鳴らすための力がなければならぬ。その力の元は何であろうか。
「はて、何だろう?」敬二は窓越しに、深夜の地上を見やった。どの建物の屋根も壁も窓も、すっかり熟睡しているように見える。怪しき力の元は、どこにも見当らない――と思ったそのとき、ふと敬二の注意をひくものが……。
「おや、あれは何だろう」それは芒《ぼう》ッと、ほの赤い光であった。二百メートルほど先の、東京ビルの横腹を一面に照らしている一大火光《いちだいかこう》であった。はじめは火事だろうかと思った。火事ならたいへんだ。火は一階から四階の間に拡っているんだから、だが火事ではない。赤い光ではあるが、ぼんやりした薄い色なんだから。
 その大火光は、ときどき息をしていた。ビビビーン、ビビビーンと窓硝子の音が息をするのと同じ度数《どすう》で、その大火光もパパーッ、パパーッと息をした。だから敬二は、窓硝子の怪音と東京ビルの横腹《よこばら》を照らす火光とが同じ力の元からでていることを知った。さあ、こうなるとその火光がどうして見えるんだか、早く知りたくなった。
 敬二は、寝衣《ねまき》を着がえて、早速《さっそく》あの東京ビルの横にとんでいってみ
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