しまった。日ごろ怒るのが商売の支配人ながら、今日は本当に足の裏から頭のてっぺんまで本当に怒っているらしかった。
「困ったなあ、ドン助のおかげで、僕まで叱《しか》られて、ああつまんないな」
敬二は、腹だちまぎれに向うへ帰ってゆく支配人の後姿にカメラを向けて、パチリと一枚写真をとった。機関銃でタタタタとやったように。いい気持になった。これで支配人の禿げ頭がキラキラと光っているところがうつってでもいれば、もっと胸がスーッとすくだろうに。
敬二は、壊れた石塊《いしころ》の上に腰を下ろして、ドン助がどこへいったのだろうかと、心あたりを一つ一つ数えはじめた。
「あ、あなたです。ワタクシ、よく覚えています――」
物思いにふけっていた敬二は、いきなり黄いろい女の金切《かなき》り声とともに、腕をムズとつかまれた。
顔をあげてみると、それは十円紙幣をくれた鳶色《とびいろ》のちぢれ毛の外国婦人だった。やっぱり大きい黒眼鏡をかけて、白っぽいコートをひきずるようにきていた。
「この間は、どうも有難う」と、敬二はお礼をのべた。
「あなた、ひどい人ありますね。なぜ約束、破りました」
「えッ、約束なんて――」
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