ぐらいの大きな穴となった。しかし何が穴を明けているのか更に見えない。
 怪奇は、まだ続いた。板塀の穴がもう大きくならぬと思ったら、こんどはまた別の大きな音響が聞えだした。カチカチカチッという硬いものをぶっとばす音だ。その音は、ずっと手近に聞える。敬二はハッとして、後をふりかえった。
 ところがどうであろう、彼はいとも恐ろしきことが、すぐ後に始まっているのを知らなかったのだ。敬二の顔は真青《まっさお》になった。そして思わずその場に尻餠《しりもち》をついてしまった。ああ彼は、そこにいかに愕《おどろ》くべき、そして恐るべきものを見たのだろうか。
 この深夜の怪奇を生む魔物の正体は何?


   崩れる東京ビル


 敬二少年は、石を積みかさねてつくられたビルディングが、溶《と》けるように消えてゆくのを見た。――なんという怪奇であろう。
「……」敬二少年は、愕きのあまり、叫び声さえも咽喉《のど》をとおらない。
 彼が見た光景を、もっとくわしくいうと、こうである。――
 彼は、東京ビルを背にして立っていたのであった。ところがうしろにカチカチカチッと硬いものをはげしく叩くような音がしたので、うしろ
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