大東京の三百万の住民たちは今グウグウ睡っているのに、それに大東京の建物も街路も電車の軌道《きどう》も黄色くなった鈴懸《すずか》けの樹も睡っているのに、それなのに敬二少年はなぜひとり目を覚ましているのだろうか。
「本当にそういうことがあるかも知れないねえ――」
と、敬二は独《ひと》り言《ごと》をいった。なにが本当にあるかも知れないというのだろうか。
「――原庭《はらにわ》先生が嘘をおっしゃるはずがない」少年は、何かに憑《つ》かれたように、誰に聞かせるとも分らない言葉を寝床の中にくりかえした。
少年を、この深夜まで只ひとり睡らせないのは、ひるま原庭先生がクラスの一同の前でなすった、一つの奇妙なお話のせいであった。
では、そのお話とは、どんなものであったろうか。――
「だからねえ、みなさん」と、原庭先生は目をクシャクシャとさせておっしゃったのである。それは先生の有名な癖だった。「世の中に、人間ほど豪《えら》いものがないと思ってちゃ、それは大間違いですよ。この広い宇宙のうちに、何万億の星も漂《ただよ》っているなかで、地球の上に住んでいるわれわれ人間が一番賢いのだなんて、どうして云えま
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