○○獣
海野十三

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)墓場《はかば》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)突然|狩人《かりゅうど》が現れ、
−−

   眠られぬ少年


 深夜の大東京!
 まん中から半分ほど欠けた月が、深夜の大空にかかっていた。
 いま大東京の建物はその青白い光に照されて、墓場《はかば》のように睡っている。地球がだんだん冷えかかってきたようで、心細い気のする或る秋の夜のことだった。その月が、丁度《ちょうど》宿《やど》っている一つの窓があった。その窓は、五階建ての、ネオンの看板の消えている、銀座裏の、とある古いビルディングの屋上に近いところにあって、まるで猫の目玉のようにキラキラ光っていた。
 もし今ここに、羽根《はね》の生《は》えた人間でもがあって、物好きにもこの窓のところまで飛んでいったとしたら、そしてその光る硝子《ガラス》窓のなかをソッと覗《のぞ》いてみたとしたら、そこに一人の少年が寝床《ねどこ》に横《よこた》わったまま、目をパチパチさせて起きているのを発見するだろう。敬二《けいじ》――といった。その少年の名前である。
次へ
全48ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング