飽きてしまうのはわかりきった話である。わかっていながら、なにかそんな風のものがあるようにしきりと鐘太皷で囃し立てているチンドン屋のような商売に従事している人達は、生きるためには義理にもそれを繰り返さなければならないし、またみんな人間はだれでもそれを一方で喜んでいるのだ。イリュウジョンのまったくなくなってしまった世界は最早人間の生きていられない世の中で恐らく「月世界」の如きものになってしまうのであろう。
 自分のこれまでに筆や口にして来たことはすべてこの人生にケチをつけるようなことばかりで、いわば「亡びゆく道」を唱えているようなものだから初めから歓迎されようなどとは毫も考えてはいない。しかし自分はなにもわざとつむじ曲りに異説を唱えているわけではなく、昔から度々先人のくりかえしている極めて陣腐な説を自分流儀にくりかえしているだけの話で一向奇抜でも珍奇でもないのだ。この世は「火宅無常」で、人間のいったりしたりしていることは一ツとして的にはならず、みんなデタラメである。そうして、自分も勿論「煩悩具足」の一凡夫にしか過ぎない。だが自分はひたすらに阿弥陀如来の救済の本願にすがるばかりで、その他には
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