変なあたま
  ――最近の心境を語る――
辻潤


 「最近の心境を語る」というのが与えられた題名なのだが今のところ別段とりたてて「心境」という程の纏まった気持も抱いてはいないから出まかせに書いてみようと思うのだ。つまり頭がひどく空虚で、ぼんやりしているというのがまちがいない「心境」なのだけれど、それではあまりアッケないからどんな程度に空虚でぼんやりしているかという説明のつもりでなにか書いてみようというのだ。今年の六月の初めにI病院を退院してから、僕はまだ文章らしいものといったら、「よみうり」に寄せた十枚の原稿以外にはなにも書いていないのだ。なにか書いて見ようという気持が時々起らないでもないが、どうも変なことを書いてしまいそうな不安が伴っていつでも中止してしまうのだ。それほど自分というものに対してひどく自信がなくなってしまっているのである。
 いまのところ自分は完全な「廃人」なのである。もし、引きとり手がなかったら自分は瘋癲病院に今なお一患者として止まるか、養育院にでも鞍替えしているかも知れないのだ。幸いそんなことにもならずに暮らしていられるのはありがたいことだと思っている。なにしろ気狂いと
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