る。――ナモサダルマブフンダリカサス――トラのりふれんが時々きこえて来る。それには恐ろしい東北の訛がある。それは詩人の無声慟哭だ。
 屈折率、くらかけの雪、丘の幻惑、カーバイト倉庫、コバルト山地、霧とマッチ、電線工夫、マサニエロ、栗鼠と色鉛筆、オホーツク挽歌、風景とオルゴール、第四梯形、鎔岩流、冬と銀河鉄道――エトセトラ。
 若し私がこの夏アルプスへでも出かけるなら、私は『ツアラトウストラ』を忘れても『春と修羅』とを携えることを必ず忘れはしないだろう。
 夏になると私は好んで華胥《かしょ》の国に散歩する。南華真経を枕として伯昏夢人や、列禦寇の輩と相往来して四次元の世界に避暑する。汽車賃も電車賃もなんにも要らない。嘘だと思うなら僕と一緒に遊びに行って見給え。

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 言葉の感覚――近刊『ですぺら』の広告文に私は『ですぺら』といったってアンペラやウスッペラの親類ではない――と書いた。するとそのたって[#「たって」に傍点]という奴がたとて[#「たとて」に傍点]になっている。これは僕にとっては恐ろしい致命傷だ。更に、そのいったとて[#「いったとて」に傍点]がいうたとて[#「い
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