会という奴で全体どの位ゼニが集まったものやらどなたとどなたがお金をおめぐみ下すった物やら、僕はとんと存知あげなかったもんだから「よみうり」でたった一度きり御礼を申しあげたっきり、実のところまだどこへも御礼状もさしあげずに失礼しているわけなんだが――まことにおちおちねるところもなかったようなわけだったのでなんとも申しわけがないようなわけでいずれそのうち本でも出した節にはいささか御礼のつもりでさしあげたいと思っているが――かなり気になってはいた。しかし「棄恩入無為真実報恩者」という甚だ虫のいい文句がほとけさまの方にあるので、そいつをちょいと拝借してお茶を濁しておくことにする。
 実際、まだ退院後一年にもなるが無想庵にさえ一度もテガミをやらない始末だ。どうしているかと時々心配はしているもののどうにもしようがない。彼も向こうにいてずいぶん沢山のものを書いて、たぶんこちらの雑誌社にも送っているのだろうとは思うが一向に見あたらない。それに右眼が潰れそうになったとかいう話をきいたがさぞつらかろう。もッともイボンヌという娘がいるから、せめてものなぐさめだが、いればいるでまた別の苦労がふえるもんだから―
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