をブラつくモダンボーイになるよりはパリのモンマルトルでアパッシュになった方がまだしも気が利いているかも知れない、これはジョークだが、私はまったく駒の出ないことを心から祈っているのだ。
 このアンチ・ビジネスマンは船へでも乗らない限り、一向まだ西洋に出かけるような気がしないのだ。しかし、道草を食い過ぎて乗り遅れるようなことがあっては大変だから、ゆっくり原稿も書いていられない始末だ。
 出発前に出来るだけ世間の義埋を片付けて行きたいと思ったが、思うばかりで一向にハカがゆかず、グズグズしている間に東京駅を出発することになってしまった。では諸君御機嫌よう。 Au revoir![#底本「An revoir」] (一九二八年一月)

入力者注1:題名に使われている「え゛」は底本では「え」に濁点の一字。題名は、仏語 ve'rite'、ラテン語 veritas (共に真実の意味)辺りに由来すると思う。
入力者注2:文中、「同行の子供」というのは、辻潤と伊藤野枝との間に生まれた長男、辻一(つじまこと。1920−1975)のことである。彼は当時静岡県の中学生であった。ここに述べられて居る通り、彼は絵描きに
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