学生徒の一隊は土塵《つちぼこり》を起てて、馳走《かけあし》で源の前を通過ぎました。
御仮屋《おかりや》の前の厩《うまや》には二百四十頭の牝馬《めうま》が繋《つな》いでありましたが、わけても殿下の亜剌比亜《アラビア》産に配《めあわ》せた三十四頭の牝馬と駒とは人目を引きました。この厩を四方から取囲《とりま》いて、見物が人山を築く。源も馬を競馬場の溜《たまり》へ繋いで置いて、御仮屋の北側へ廻って拝見すると、郡長、郡書記なども「フロック・コォト」の折目正しく、特別席へ来て腰を掛ける。双眼鏡を肩に掛け、白いしなやかな手を振って、柔かな靴音をさせる紳士は参事官でした。俄然《にわかに》、喇叭《らっぱ》の音が谿底《たにそこ》から起る。次第にその音が近く聞えて来て、終《しまい》には澄み渡った秋の空に鳴り響きました。
十|輌《りょう》ばかりの人力車《くるま》が静粛な群集の中を通って、御仮屋の前まで進みました。真先には年若な武官、次に御附の人々、大佐、知事、馬博士、殿下は騎兵大佐の礼服で、御迎の御車に召させられました。御車は無紋の黒塗、海老染《えびぞめ》模様の厚毛布《あつげっと》を掛けて、蹴込《けこみ》
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