の、足腰の締《しま》った、雑種らしい灰色なんです。樺が場を踏んだ証拠は、馬の扱いが柔かで、ゆったりとしていて、加《おまけ》に捜りを入れるような目付をして、他の四人の呼吸を図っているのでも分る。それにこの男の静な、冷い態度《ようす》と言ったら――それは底の知れないような用心深いところがあって、一歩《ひとあし》でも馬に無駄を踏ませまいと、たくらんでいるらしい。源は大違です。あまり心が激《あせ》り過ぎて、乗出さぬ先から手綱を持《もつ》手が震えました。
相図を聞くが早いか、五人の乗手はもう出発の線を離れる。真先に乗進んだのが源の青、次が紫、白、赤でした、樺は乗|後《おく》れて見えました。「青、青」の叫び声は埒の四方から起る。殿下は御仮屋の紫の幕のかげに立たせられ、熱心に眺入らせ給うのでした。大佐は幾度馬博士の肩を叩《たた》いたか知れません。知事も、郡長も、御附の人々も総立です。参事官は白いしなやかな手を振りました。五人の乗手は丁度乗出した時と同じ順で、五十間ばかりの距離を波打つように乗進んで行った。源が紫に先んじたことは、樺が赤に後れたと同じ程の距離です。ですから源が振返って後を見た時は、舞
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