き事、堂上あるいは諸侯へ行き合う節は双方道の半ばを譲って通行すべき事の類《たぐい》だ。それには但《ただ》し書《が》きまで付いていて、宮方へ行き合う節は御供頭《おともがしら》へその旨《むね》を通じ、公使から相当の礼式があれば御会釈《ごえしゃく》もあるはずだというようなことまで規定されている。
この個条書を正確に読みうるものは、一行のうちでカションのほかにない。カションはそれを公使ロセスにもオランダ代理公使ブロックにも訳して聞かせた。その船の船室には赤い毛氈《もうせん》を敷き、粗末な椅子《いす》を並べて、茶なぞのもてなしもあったが、カションはひとりながめを自由にするために、大坂を離れるころから船室を出て、舷《ふなばた》に近い廊下の方へ行った。そこここには護衛顔なフランス兵も陣取っている。カションはその狭い廊下の一隅《いちぐう》にいて煙草《たばこ》を取り出そうとすると、近づいて来て彼に挨拶《あいさつ》し、いろいろと異国のことを質問する日本の官吏もあった。
そういうカションはフランス人ながらに、俗にいう袂落《たもとおと》しの煙草入れを洋服の内側のかくしに潜ませているほどの日本通だった。そば
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