夜明け前
第二部上
島崎藤村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)円山応挙《まるやまおうきょ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二十七、八|間《けん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「衣へん+上」、第4水準2−88−9]

 [#…]:返り点
 (例)告[#二]諸外国帝王及其臣人[#一]
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     第一章

       一

 円山応挙《まるやまおうきょ》が長崎の港を描いたころの南蛮船、もしくはオランダ船なるものは、風の力によって遠洋を渡って来る三本マストの帆船であったらしい。それは港の出入りに曳《ひ》き船を使うような旧式な貿易船であった。それでも一度それらの南蛮船が長崎の沖合いに姿を現わした場合には、急を報ずる合図の烽火《のろし》が岬《みさき》の空に立ち登り、海岸にある番所番所はにわかにどよめき立ち、あるいは奉行所《ぶぎょうしょ》へ、あるいは代官所へと、各方面に向かう急使の役人は矢のように飛ぶほどの大騒ぎをしたものであ
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