がしくぜみちとみ》の名代もその艀《はしけ》まで見送りに来た。
小蒸汽船が動き出してからも、不慮の出来事を警戒するような監視者の目は一刻も毛色の変わった人たちから離れない。いたるところに青みがかった岸の柳も旅するものの目をよろこばすころで、一大三角州をなした淀川の川口にはもはや春がめぐって来ていた。でも、うっかりロセスなぞは肩に掛けていた双眼鏡を取り出せなかったくらいだ。
「こんなにしてくれなくてもいい。どうして外国人はこんな監視を受けなければならないのか。」
オランダの代理公使はひどくうるさがって、それを通訳の書記官に言わせると、付き添いの日本の官吏は首を振った。
「諸君を保護するのであります。」
との答えだ。
旅の掟《おきて》もやかましい。一行が京都へ着いた際の心得まで個条書になって細かく規定されている。その規定によると、滞在中は洛《らく》の中外を随意に徘徊《はいかい》することは許される、諸商い物を買い求めたり小屋物等を見物したりすることも許される、しかし茶屋酒楼等へひそかに越すことは許されない。夜分の外出は差し留められる事、宮方《みやかた》へ行き合う節は路傍に控えおるべ
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