わさは、金銭のことにくわしい市民の口に上らずにはいなかったころである。
公使ロセスは書記官カションを同伴して、安治川《あじがわ》の川岸から艀《はしけ》に乗るところへ出た。仏国船将ピレックス、およびトワアルの両人もフランス兵をしたがえて京都まで同行するはずであった。そこへオランダ代理公使ブロックと同国書記官クラインケエスも落ち合って見ると、公使一行の主《おも》なものは都合六人となった。岸からすこし離れたところには二|艘《そう》の小蒸汽船が待っていて、一艘には公使一行と、護衛のために同伴する日本人の官吏およびフランス兵を乗せ、他の一艘には薩州の護衛兵を乗せた。その日は伏見泊まりの予定で、水陸両道から淀川《よどがわ》をさかのぼる手はずになっていた。陸を行く護衛の一隊なぞはすでに伏見街道をさして出発したという騒ぎだ。異国人の参内と聞いて、一行の旅装を見ようとする男や女はその川岸にも群がり集まって来ている。京都の方へは中井|弘蔵《こうぞう》が数日前に先発し、小松|帯刀《たてわき》、伊藤|俊介《しゅんすけ》らは英国公使と同道で大坂を立って行った。ロセスらの一行が途中の無事を祈り顔な東久世通禧《ひ
前へ
次へ
全419ページ中86ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング