メルメット・カションがいて、通訳には事を欠かない。このカションが、
「さあ、これです。」
と、わざわざ日本語で言って見せて、通禧らの土産話をロセスにも取り次ぎ、他の公使仲間にも取り次いだ。
「ボン。」
ロセスがその時の答えは、そんなに短かかった。思わず彼の口をついて出たその短かい言葉は、万事好都合に運んだという意味を通わせた。英国のパアクス、米国のファルケンボルグ、伊国のトウール、普国のブランド、オランダのブロック――そこに招かれて来ている公使の面々はいずれも喜んで、十八日には朝延へ罷《まか》り出ようとの相談に花を咲かせた。中には、京都を見うる日のこんなに早く来ようとは思わなかったと言い出すものがある。自分らはもう長いこと、この日の来るのを待っていたと言うものもある。
晩食。食卓の用意もすでにできたと言って、カションは一同の着席をすすめに来た。その時、宇和島少将は通禧の袖《そで》を引いて、
「東久世さん、わたしはこういうところで馳走《ちそう》になったことがない。万事、貴公によろしく頼みますよ。」
「どうも、そう言われても、わたしも困る。まあ、皆のするとおりにすれば、それでよろしい
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