のでしょう。」
通禧の挨拶《あいさつ》だ。
配膳《はいぜん》の代わりに一つの大きな卓を置いたような食堂の光景が、やがて通禧らの目に映った。そこの椅子《いす》には腰掛ける人によって高下の格のさだまりがあるでもなかったが、でもだれの席をどこに置くかというような心づかいの細かさはあらわれていた。カションの案内で、通禧らはその晩の正客の席として設けてあるらしいところに着いた。パアクスの隣には醍醐大納言、ファルケンボルグとさしむかいには宇和島少将というふうに。そこには鳥の嘴《くちばし》のように動かせる箸《はし》のかわりに、獣の爪《つめ》のようなフォークが置いてある。吸い物に使う大きな匙《さじ》と、きれいに磨《みが》いた幾本かのナイフも添えてある。食卓用の白い口|拭《ふ》きを折り畳《たた》んで、客の前に置いてあるのも異国の風俗だ。食わせる物の出し方も変わっている。吸い物の皿《さら》を出す前に持って来るパンは、この国のことで言って見るなら握飯《むすび》の代わりだ。
カションはもてなし顔に言った。
「さあ、どうぞおはじめください。フランスの料理はお口に合いますか、どうですか。」
給仕人《きゅう
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