の心を籠絡《ろうらく》して、それからはすこぶる自由に自分の望むところを尋ね、かつて世界の秘密とされたこの島国に隠された事をも遺憾なく知ることができたと言ってある。


 遠く極東へとこころざして来た初期のオランダ人の旅について、ケンペルはまた種々《さまざま》な話を書き残した。使節フウテンハイムの一行が最初に江戸へ到着した時のことだ。彼らは時の五代将軍|綱吉《つなよし》が住むという大城に導かれた。百人番というところがあって、そこが将軍居城の護衛兵の大屯所《だいとんしょ》になっていた。一行は命令によってその番所で待った。城内の大官会議が終わり次第、一行の将軍|謁見《えっけん》が行なわれるはずであった。二人《ふたり》の侍が彼ら異国の珍客に煙草《たばこ》や茶をすすめて慇懃《いんぎん》に接待し、やがて他の諸役人も来て一行に挨拶《あいさつ》した。そこに待つこと三十分ばかり。その間に、老中《ろうじゅう》初め諸大官が、あるいは徒歩、あるいは乗り物の輿《こし》で、次第に城内へと集まって来た。彼らはそこから二つの門と一つの方形な広場を通って奥へと導かれる。第一の門からそこまでは数個の階段がある。門と大玄関
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