との間ははなはだ狭くてほんのわずかの間隔に過ぎなかったが、護衛の侍を初め多くの諸役人が群れ集まって来ていた。それから一行は進んで二つの階段をのぼり、まずはいったのは広い一間で、それから右側の一室にはいった。そこは将軍に向かっても、また老中に向かってもすべて対面を求めるものの許可を得るまで待ち合わす所である。そこはなかなか大きな室《へや》であるが、周囲の襖《ふすま》をしめきるとすこぶる薄暗い。わずかに隣室の上部の欄間《らんま》から光線がもれ入るに過ぎない。しかし国風《くにぶり》によって施された装飾の美は目もさめるばかりで、壁と言わず、襖と言わず、構造は実に念の入ったものであったという。待つこと一時間以上、その間に将軍は謁見室に出御《しゅつぎょ》がある。一行のうちの使節のみが導かれて御前に出る時、一同大声で、
「オランダ、カピタン。」
 と呼んだ。これは将軍に近づいて使節に礼をさせるための合図である。将軍が国内の他の最も強大な諸侯に対する場合でも、その態度はすこぶる尊大である。すべて諸侯の謁見に際しても、その名が一度呼び上げられると、諸侯は無言ですわったまま手と膝《ひざ》とで将軍の前ににじ
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