、曾孫《ひいまご》まであるこのおばあさんは、深窓に人となった自分の娘時分のことをそこへ持ち出して見せた。ことに、その「箪笥」には力を入れて。
 こんなことで、お民はそこそこに戻《もど》りのしたくした。馬籠の方に彼女を待つ夫ばかりでなく、娘のことも心にかかって、そう長くは生家《さと》に逗留《とうりゅう》しなかった。うこぎの芽にはやや早く、竹の子にもまだ早くて、今は山家も餅草《もちぐさ》の季節であるが、おばあさんはたまの里帰りの孫娘のために、あれも食わせてやりたい、これも食わせてやりたいと言う。その言葉だけでお民にはたくさんだった。来た時と同じように、彼女は鈴の鳴る巾着《きんちゃく》を和助の腰にさげさせ、それから下女のお徳の背におぶわせた。
「あれ、お民、もうお帰りかい。それでも、あっけない。和助もまたおいでや。この次ぎに来る時は大きくなっておいでや。まだまだおばあさんも達者《たっしゃ》で待っていますよ。」
 このおばあさんにも、お民は別れを告げて出た。
 街道には、伊勢参宮《いせさんぐう》の講中《こうじゅう》なぞが群がり集まるころである。木曾路ももはや全く以前のような木曾路ではない。お民
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