ったが、最後まで吉左衛門の髭《ひげ》を剃《そ》りに油じみた台箱をさげて通《かよ》ったのも直次で、これも羽織着用の改まった顔つきでやって来た。
 松雲和尚の前に栄吉、得右衛門の前に清助、美濃から来た客の前には勝重までが取り持ちに出て、まず酒を勧めた。
「そうだ、今夜は皆の盃《さかずき》を受けて回ろう。おれも飲もう。」
 半蔵はその気になって、伊之助と寿平次とが隣り合っている膳《ぜん》の前に行ってすわった。
「よくこんなにおしたくができましたね。」
 と言って、伊之助も盃を重ねている。こうした一座の客として来ていても、静かに膳の上をながめ、膳に映る小盃の影を見つけて、それをよく見ているような人は伊之助だ。その時、半蔵が酒を勧めながら言った。
「まあ、時節がら、質素にとも思いましたがね、今夜だけは阿爺《おやじ》の生きてる日と同じようにしたい。わたしもそのつもりで、蕎麦《そば》で一杯あげることにしましたよ。」
 半蔵は伊之助から受けた盃を寿平次の方へもさした。
「寿平次さん、この酒は伏見屋の酒ですよ。今夜は君もゆっくり飲んでください。」
 そこここの百目蝋燭《ひゃくめろうそく》の灯《ほ》かげに
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