「そりゃ、君、尾州家で版籍を奉還する思いをしたら、われわれの家で問屋や会所を返上するぐらいは実に小さな事でさ。」
「さあ、ねえ。」
「どうでしょう。どうせ壊《こわ》れるものなら、思い切って壊して見たら。」
「半蔵さんは平田門人だから、そういう意見も出る。」
「でも、そこまで行かなかったら、御一新の成就《じょうじゅ》も望めなかありませんか。」
「君の言うように、思い切って壊して見る日にゃ、自分でも本陣や問屋と一緒に倒れて行くつもりでなくちゃ……こういう時になると、宗教のある人は違う。まあ、新政府のやり口をもっとよく見た上でないとね。一切はまだわたしには疑問です。」
 その時、松雲和尚をはじめ、旧年寄役の人たちなぞが来て席に着き始めるので、二人はもうそんな話をしなかった。そこには奥の間、仲の間、次の間の唐紙《からかみ》をはずし、三室を通して客の席をつくってある。二里も三里もあるところから峠越しでその日の葬式に列《つら》なりに来て、万福寺や伏見屋に泊まっている隣の国の客もあったが、そういう人たちも提灯《ちょうちん》持参で招かれて来た。日ごろ出入りの大工も来、畳屋も来た。髪結いの直次も年をと
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