総管所が百方周旋の結果、木曾谷へ輸入されるはずの大井米が隣宿落合まで到着したなぞの件だ。西からはまた百姓暴動のうわさも伝わり、宿場の改革に反対な人たちの不平はどんな形をとってどこに飛び出すやも知れないような際に、正金を融通《ゆうずう》したり米穀を輸入したりして時局を救おうとする当局者の奮闘は悲壮ですらある。
「問屋役廃止以来、おれもしょんぼり日を暮らして来た。」と半蔵は自分で自分に言った。「明るい世の中を前に見ながら、しおれているなんて――おれはこんなばかな男だ。」
半蔵はまた寿平次のいるところへ戻《もど》って行った。寿平次と彼とは互いに本陣同志、また庄屋同志で、彼の心にかかることはやがて寿平次の心にかかることでもある。
「半蔵さん、飛脚ですか。」
「えゝ、宿場の用です。いよいよ大井米もわれわれの地方へはいって来ます。」
「近いうちに君、名古屋藩も名古屋県となるんだそうじゃありませんか。そうなれば、福島総管所も福島出張所と改まるという話ですね。今度来る土屋総蔵《つちやそうぞう》という人は、尾州の御勘定奉行だそうですが、そういう人が来て民政をやってくれたら、この地方も見直しましょう。」
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