来た。旧会所の建物は本陣表門のならびに続いて、石垣《いしがき》の多い坂道の位置から伏見屋のすぐ下隣りに見える。さびしく戸のしまったその建物の前を立ち去りがたいようにして、杖《つえ》をつきながら往《い》ったり来たりしている人がある。その人が彼の父だ。大病以来めったに隠居所を離れたこともない吉左衛門だ。半蔵は自分の家の方へ降りかけたところまで行って、思わずハッとした。
「お父《とっ》さん、どちらへ。」
声をかけて見て、半蔵は父がめずらしく旧友金兵衛を訪《たず》ねに行って来たことを知った。その父が家の門前までひとりでぽつぽつ帰って来たところだということをも知った。
「お父さん、大丈夫ですか。そんなにひとりで出歩いて。」
と彼は言って、裏の隠居所まで父を送らせるために自分の子供をさがしたが、そこいらには宗太も遊んでいなかった。彼は自身に父を助けるようにして、ゆっくりゆっくり足を運んで行く吉左衛門に付き添いながら、裏二階の前まで一緒に歩いた。
今は半蔵も問屋役から離れてしまったことを父に隠せなかった。新しい伝馬所は父の目にも触れた。継母や妻の心配して来たことを、いつまで父に告げないのは
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