ろがあった。上御一人《かみごいちにん》ですら激しい動きに直面したもうほどの今の時に、下のものがそう静かにしていられるはずもないと。
 伊之助は、爪《つめ》をかみながら、黙って半蔵の言うことを聞いていた。半蔵の耳はまた、やや紅《あか》かった。
「しかし、伊之助さんも御苦労さまでした。お互いに長い御奉公でした。」
 とまた半蔵は言い添えた。
 もはや諸道具一切は伝馬所の方へ運び去られている。半蔵は下男の佐吉を呼んで、戸をしめ、鍵《かぎ》をかけることを言いつけて置いて、やがて伊之助と共に会所の前を立ち去った。

       六

 平田延胤《ひらたのぶたね》の木曾街道を通過したのは、馬籠ではこの宿場改革の最中であった。延胤は東京からの帰り路《みち》を下諏訪《しもすわ》へと取り、熱心な平田|篤胤《あつたね》没後の門人の多い伊那の谷を訪《おとな》い、清内路《せいないじ》に住む門人原|信好《のぶよし》の家から橋場を経て、小昼《こびる》(午後三時)のころに半蔵の家に着いた。しばらく木曾路の西のはずれに休息の時を送って行こうとしていたのである。もっとも、この旅は延胤|一人《ひとり》でもない。門下の随
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